🍰読書感想文: 森永卓郎『モリタクの低糖質ダイエット』2020年12月02日 21:44



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2020年12月02日にブログ「食べ過ぎるな!」に書いた記事のコピペ。

(ブログ「食べ過ぎるな!」の内容をアサブロに引っ越し中。)



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読書感想文: 森永卓郎『モリタクの低糖質ダイエット』 

20201202

 

森永卓郎『モリタクの低糖質ダイエット』

 

某書籍通販サイトのコメント欄で賛否両論あったので、とりあえず図書館で借りて読んでみたが、個人的には面白く読めたし、とても良く企画された本だと思った。

 

表紙と裏表紙の、before ⇒ after の写真以上に強力な説得力がないわけだが、スタイリストのシュアな仕事ぶりも感じられる:表紙の森永氏の服装である。 トップスを膨張色の白いシャツにして、ボトムに収縮色のダークネイビーの、裾に向けてテイパードされたパンツを合わせることによって、じつはそうでもない森永氏の体型を精悍な逆三角形型に見せようとする工夫がなされている。 白いシャツの襟元がはだけすぎでは?と思う向きもあるだろうが、これは、首を長く見せて縦のラインを強調することによって、体形をスリムに見せる目の錯覚効果を利用したものだろう。 白いシャツを腕まくりさせたのも、膨張色の白の面積を少なくすることで、やはりスリムに見せる意図があると感じる。 ベルトと靴の色を、実直さのイメージがある茶色にしたことも、この本の内容の信頼性を高める効果に、間接的に一役買っている。 スタイリストさん、グッジョブである。 

 

表紙の背景色をブルーにしたのも効果的だ。 背景を暖色系のピンクやオレンジにしたら、この本のターゲット層の中年ビジネスマンが書店で手に取りづらいかもしれない。 それに何よりも、特定の食べ物(糖質)を食べないダイエットの本であるから、食べ物の色に一番多いピンクやオレンジ色や、野菜の緑色にするよりも、光ものの魚ぐらいしか思い当たらないブルー系にしたほうが、ダイエット本にはふさわしい。 人間は、青い色には食欲が沸かないのだ。 タイトルの文字にレモンイエローを使って、爽やかで健康的な印象をデリバーしようとしているのも秀逸だ。

 

文章のコンテンツに関しては、ベストセラー本を連発する森永氏の文才が光る、わかりやすくて読みやすい文章だが、「ぶっちぎりのデブ」や「糖質モンスター」などのキャッチーで笑える用語は、企画サイドによるものなのかどうかは、定かではない。 一方で、「マッチポンプ」や「コペルニクス的」といった用語や、「食費は変動費」や、鮮魚の「価格弾力性」、シリコンクッカーは低い「初期投資」で済むなど、森永氏ならではの経済学のコンセプトでダイエット活動をとらえる視座が、ターゲット層である多忙なビジネスピープルのハートをつかむ。 糖質オフダイエットから日本経済への提言につなげるあたりは、タレント経済学者の森永氏ならではの壮大な青写真だが、内容はしごくごもっともである。

 

社会で働いてきた人は誰しも、若いころ~中年期にかけて、自分に無理をしてモーレツに仕事をし、しゃにむに必死に、怒涛のように生きてきた時期があったはずだ。 そして、その怒涛の時期に、糖尿病などの生活習慣病への種がまかれていたことも、そして、その種を「まだ若いから」という事実上の自己否定によって「仕事優先」の錦の御旗のもとに無視し続けてきたから、こうなってしまった、という思いもあるはずだ。 森永氏の怒涛の超モーレツ時代は、常人のレベルをはるかに超えているが、それでも、読む人はそれぞれに、「自分にもそういう頃があったなぁ」と、わが身を振り返り、森永氏の体験に自らを重ね合わせるかもしれない。

 

その点に、この本を企画した人たちの狙いがあり、それが功を奏したと思う。

 

巻末の「モリタクの低糖質ダイアリー」も、地味ながら有益なコンテンツだ。 森永氏の低糖質ダイエット中の日々の食事のスナップ写真集だが、白黒写真ながら、仕事漬けの独身男性(ならびに女性)が低糖質ダイエットを続けるためのヒントが詰まっている。 自炊・弁当・外食・コンビニ食・宅配低糖質食を使い分けながら、外食やコンビニ食では何を食べて、何を食べ残すか。 昔と違って食べ物が過剰に氾濫する現代の日常生活の中で、「自分にとって何が食べ物で、何が食べ物の姿をしたジャンクであるか」を鋭く見極めて、「ジャンクは身体の中に入れない!」 という、毅然としたアティテュードで日々を生き抜くグリッドが、自分の健康を維持して人生のQOLを上げるために必須であることを、示唆している。 また、自炊においては、金銭&時間コストを節約するために、いかに低コストで、手を抜いて調理するか。 既婚者の場合は、奥さんが「主婦業へのソーシャルプレッシャー」のせいであろう、とかく満漢全席のような「ダイエット食」を作ってしまうこともあろうが、森永氏のあまりにも武骨でそっけない、だが実があって実際に効果が出た自炊の食卓から、学ぶことも多かろう。 ダイエット食の効果と、手間ひまかけた心づくしの懐石料理並みの品目の多さとの、相関は無い。 効果的なダイエット食は、どのような食材を使っても、どのようにプレゼンテーションされても、効果は変わらない。 見切り品のしなびた白菜や、通常は捨てるキャベツの外側の緑色の葉や、閉店間際のスーパーの赤札になった魚をぶち込んだだけの鍋が、じゅうぶんに優れた結果を出す。 妻帯者は、「良妻賢母」を要求するソーシャルプレッシャーによる強迫観念から奥さんを開放して差しあげれば、自分の健康にもつながり、奥さんのストレス喰いも減って、夫婦ともに健康な生活に近づくのではあるまいか。

 

某書籍通販サイトの書評には、「巻末の、医師の立場から見たモリタク式低糖質ダイエットの解説が参考になった」という意見が多いようだが、私も同感だ。 糖尿病の進行具合いによっては激しい運動が失明にもつながりかねない、という内容は、私にとっては貴重な情報だ。 「植木鉢を持ち上げようと力んだ途端に視界が真っ暗になった」患者さんの例に、私は震え上がった! 

 

巻末の章「医師から見たモリタクの低糖質の真実」の中で、櫛山医師は、森永氏の健康状態というか不健康状態を精査した結果、「糖質オフのみならず、どのような食事療法でも、取り組みさえすれば効果は出るだろうと期待していました」と語っている。 また、「ダイエットのためだけではなく、糖尿病の予防・改善に際しても、糖質オフが唯一無二の改善方法ではありません」とも述べている。

 

日本には伝統的に、一部の人たちの間で精進料理や断食の習慣があって、戦後は甲田療法のような食事療法が提唱されたり、90年代には糖尿病患者のための低糖質治療食をヒントにした「世にも美しいダイエット」といったファッションコンテンツが流行した。 毎年、様々な食事法が医療的に、あるいは流行商品として、主に欧米から次々に紹介される。 スムージーなどは、ぶっちゃけ甲田療法の青泥なのだが、「青泥」では若い女性が飛びつかないから「スムージー」なんていうオピャレなヨコモジの名前で私のような愚者が飛びつくように仕掛けるわけで、情報の氾濫の中で愚者の集団である一般ピープルは右往左往するばかりである。 近年は糖質制限への賛否両論が一般ピープルの耳にも入ってきて、プロの医師による従来の治療法の効果に不信感を持った糖尿病患者や糖尿病予備軍といった「素人たち」が、海外から個人輸入した血糖値測定器を使って、自分の血糖値を計測し、時には自らの身体を張って人体実験ばりの計測を行い、その結果をブログなどにどんどん掲載して情報交換している。 糖尿病患者や予備軍の人たちは、メインストリームの医療も、お上からの指針も、アウトライトに信じることができない状態で、唯一確かなものとしての自分の検査結果の数値を心の拠り所にしながら、必死に探してかき集めた情報から個人的に効果があった方法を試行錯誤し、自分にとって最適な方法を模索しているように見える。

 

そして、それが正解なんだろう、と思う。

 

自ら考え行動せずに、明日「間違っていました」になるかもしれない専門家の意見やお上のお達しに盲目的に頼り切ることは、自らの命を他人任せにすることだ。 はなから自分の命を投げてしまっているのだから、最悪、殺されても仕方がない。

 

「糖尿病の食事療法として何がベストなのかという結論は出ていませんし、時代とともに病状の変化があると、食事療法も変わる可能性があります。そしておそらくは、人によってよい方法は異なります。

 

現在進行形の糖尿病を抱えている人に、結論が出るまで待ってくださいとは言えません。

 

低糖質ダイエットがその人にとって受け入れやすく、継続しやすい方法であり、体重が減って血糖値が良くなり、先ほど説明したメディカルチェックを定期的に受けて、合併症が出ていないことが確定しているのであれば、実践する価値はあるというのが、私の立場です。」

 

という、最後を締めくくる櫛山医師の言葉以上の結論は無いだろう。

 

そして、

 

実は、この本のテーマである「低糖質ダイエット」の背後にある本質は、「低糖質ダイエット&運動指導というダイエット行を森永氏が完遂できたのは、同氏がダイエット中も、大好きなタバコの喫煙を続けて、ダイエットのストレスを和らげることができたからである」という内容の、その行間に光っていると、私は思う。 今回のダイエット行によって森永氏は糖尿病は克服したが、肺がんその他の健康リスクはまだ残っているという、人間の健康の多面性が示唆されている。 それでは、人間の健康を害する全てのリスクを完全に排除することができるのか? 超売れっ子のタレント経済学者である森永氏の現在の地位は、氏のキャリアの原点である日本専売公社、すなわち、タバコと切り離すことができない。 森永氏の人生は、タバコそのものなのだ。 それが、森永氏の「これが私の生きる道」である。 喫煙が死に至るリスクであることを同氏が納得済みであることが、文中で表明されている。「たとえそうなっても、それが自分の人生だ」と、覚悟を決めて生きておられる。 

 

誰しも、「これが私の生きる道」を生きている。 他人から見てどんなに不健康なものでも、リスクを伴うものでも、生活のためにどうしても止めることができないものが、誰にもある。 「これが私の生きる道」に必然的に伴うリスクと、いかに折り合いをつけながら、人生を末永く健康に過ごしていくか? これが、あらゆる人にとっての人生の課題であろう。

 

今回の本も、学びになった。 これからも、本やネットなどから様々な情報を得ながら、自分自身で吟味検討し、自分にとっての最適な食を求道していく。 その孤独かつ満ち足りた道程の行く手に赤々と燃えるビーコンの炎は、今日も私にこう呼びかける:

 

食べすぎるな!

二口女(ふたくちおんな)


 

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