🌖なぜ高齢者は昭和のコンテンツが好きなのか。 ― 2023年08月29日 04:15
なぜ高齢者は昭和のコンテンツが好きなのか。
20230829
時代劇専門チャンネルや日本映画専門チャンネルが、高齢者を中心に根強い人気だ。
また、東京12チャンネルが大晦日に放送する歌謡ショーの視聴率も年々上がっているという。
「年寄りだから、古いものが好きなんだよ」
たしかにそうだ。
だが、どうして高齢者は古いコンテンツを視聴したがるのだろうか?
ただの懐古趣味だけであろうか?
理由の一つが「ことば」による生理的な感覚であることを、私は疑わない。
私がテレビを全く見なくなった理由は、
今のアナウンサーや俳優たちの「ことば」を聞いていると
三半規管がおかしくなって気分が悪くなってしまうからだ。
最先端のファッションでキレイに着飾ってメークもバッチリの女子アナや歌姫が画面に映っても、
鼻濁音をぜんぶ濁音に発音した時点で、イモの煮っころがしにしか見えなくなってしまう。
また、いわゆる「シャクリ」といわれる、小学校の学芸会の朗読読みのような、
「助詞上げ」イントネーションを聞いたとたんに、テレビのスイッチを切る。
そういったことを繰り返しているうちに、すっかりテレビを見なくなった。
高齢者が好む昭和の時代劇や昭和の日本映画、そして、
いまや高齢者になって往年のスター歌手たちは、
以前と変わらぬ発音やアクセントの「ことば」を語る。
だから高齢者はいまだに、自分と同じ「ことば」が聞ける、
昭和のコンテンツや昭和のスター歌手の歌を好むのだ。
とはいっても「ことば」は世代の移り変わりによって変化する。
もう鬼籍に入られた、ご存命なら120歳以上の方々にとっては、
戦後昭和のテレビやラジオから聞こえてきた「ことば」にすらムシズがはしったことだろう。
中村吉右衛門さんのお父さんの先代の松本白鷗さん主演の「鬼平犯科帳」の、
白鷗さんら俳優陣の発音が、とても興味深い。
白鷗さんは「中山道」を「なかせんどー」と、
「な」を高く、頭高(あたまだか)アクセントで発音されていた回がある。
以前は、「東海道」も「とーかいどー」、と、頭高アクセントだった。
いまは「とーかいどー」だ。
20世紀までは、鼻濁音を濁音で発音したり、
たとえばグーグルを「ぐーぐる」みたいに平板読みする人は、
もうその発音を聞いただけで田舎者とわかったのだ。
今のアナウンサーたちもアナウンス学校で練習したにちがいない、
「瀕死の死者が日比谷から渋谷まで必死に疾走した」という文句は、
どこの出身の人の何を矯正する目的があったのかを、
今のアナウンサーたちは知る由もないだろう。
それくらい、バブル期以前までのアナウンサーは、
自らの出身地ばかりか、親の出身地まで厳しく精査されて選ばれていたのだ。
高齢者の財布を狙う若い人たちは、そのあたりをよく勉強すると、
高齢者を籠絡(ろうらく)しやすいかもしれない。
といっても、時代は巡る。
今の若者が高齢者になる頃には、
いまの「ことば」はさらに奇怪なものになっているだろう。
そしてそのとき、
今の若者(未来の高齢者)は、
私が上記に書いたのと同じように思うことだろう。
でも、そんなことを考えるのも、
60近くになったら、疲れちゃった。
還暦過ぎてから、自分がつつがなく淡々と生きていられれば、
ヘンテコな「若者アクセント」なんて、
テレビやパソコンを閉じれば聞かずに済むから、
どうでもいいよ。
もうどうでもいいよ。
もういいよ。
もう、いいよ。

浅井忠「十二月」(部分) NDLイメージバンク(国立国会図書館)
作品全体図はこちらのURLのどこかにある:
美術文芸雑誌『方寸』|NDLイメージバンク|国立国会図書館
最近のコメント